そもそも商品体験とは何か。そして企業が卓越した顧客体験を提供する上でどのように役立つのかご紹介します。
2016年、小売業界の流行語として浸透した「オムニチャネル」。オンラインとオフラインのタッチポイントを融合し、統合されたシームレスな顧客体験を実現するオムニチャネルは、こうしたソリューションを模索していた意思決定者の間で大きな話題となりました。
時は流れて現在、より多くの企業がデジタル変革の成熟期に達する中、チャネルではなく、体験が何よりも重要とされる「オンデマンド」が重視されています。
万能のソリューションというものは存在しないため、最適な体験を顧客に提供する方法については、当然さまざまな理論・戦略が存在します。しかし、他社と一線を画し、結果的に顧客ロイヤルティを獲得するために活用すべき顧客体験の要素が実は1つ存在します。軽視されがちなその要素とは、商品体験です。
商品体験とは
IGI Global社は、顧客の視点から見た「商品体験」とは、「利用者と製品とのインタラクションによって引き起こされるあらゆる効果のことで、これには(1)すべての感覚が満足する度合い(感覚的な喜び)、(2)製品に伴う意味合い(意味経験)、(3)誘発される気持ちや感情(感情経験)が含まれる」と述べています。
顧客体験という大掛かりな構想において、商品体験の重要性を深く理解しているグローバルブランドとして挙げられるのがコカ・コーラ社です。
若いY世代やZ世代は健康志向にあり、彼らの市場への参入は、健康に良くない製品を販売しているブランドにとっては存続にかかわる脅威。未来の顧客とも言えるこの大きなグループに効果的なマーケティングができなければ、コカ・コーラ製品は消滅してしまうでしょう。しかし今のところそんな気配はまったくありません。2018年時点で、同社は799億ドル6,000米ドルのグローバル価値を誇るブランドとして人々から愛され、高い評価を得ています。
その成功の秘訣は、効果的なポジショニングです。コカ・コーラ社はコーラを製品として販売するのではなく、広告キャンペーンの中で明るく前向きな体験を生み出す製品としてリポジショニングを展開。
バイラル動画として注目を集めた「ハピネスマシン」のキャンペーンは、コーラが商品体験によって全体的な顧客体験の取り組みをどのようにサポートしているかを示す一例と言えるでしょう。
デジタル系のタッチポイントにおいて商品体験が意味するもの
eコマースを例にとって考えてみましょう。ブラウジングやオンラインショッピングに関して言えば、(顧客の視点から見た)ポジティブな商品体験は、画面に表示される正確かつ一貫性のある、完全な商品情報から始まっているのかもしれません。
たとえば、最新モデルのテレビを購入するために、ネットで商品をチェックしようと考えている顧客がいるとします。
(顧客は平均3~5つのウェブサイトをチェックした上で営業担当者に問い合わせ、詳しい情報を入手したり、購入を決定します)。
顧客ジャーニーの流れは次のようになります。
- ラップトップで5つのサイトにアクセス。そのうち3つのサイトだけが正確かつ一貫性のある、完全な商品情報を提供していることに気付き、残りの2つのサイトは無視して3つのサイトに絞る。
- 3つのサイトから得た情報をパートナーの携帯電話に送信し、店頭で実際に確認してもらう。店舗に行ってみると、あるブランドのオンライン情報と実店舗の情報が食い違っていることが判明。これには価格、機能、プロモーション等が該当しますが、重要なポイントは顧客に不正確な情報が提供されたということ。顧客はさらに2つのブランドを除外し、オンラインでもオフラインでも一貫して正しい情報を正確に提供するよう努めた1社が残った。
- 顧客が商品を購入。
このブランドは時間をかけて見込み顧客に優れた製品体験を提供したことで、商品を販売できただけでなく、ブランド支持者を獲得できました。推奨するテレビのブランドを誰かに尋ねられたら、正確な情報をきちんと提供しているこのブランドが間違いなく一番に浮かぶでしょう。
とはいえ、これはあくまで理想的なシナリオ。
実際には、セールや割引などを利用するために商品をオンラインで購入しても、結局は通常価格を請求されるというのがよくあるパターンです。
価格がいくらであれ、顧客は不当に扱われたと即座に感じ、すぐさまECサイトに「信頼できない」、「信用性に欠ける」といったレッテルを貼るでしょう。
矛盾の原因となった可能性がある要素
ECサイトに掲載された情報が古かった可能性が考えられます。またセールやプロモーションは限定期間のみ有効で、その期間を過ぎてから購入したために通常の価格を請求されたのかもしれません。その後、顧客に払い戻しがされたかどうかは大きな問題ではありません。問題は、顧客が不快な体験をしたということです。これはリピート客を生まないだけでなく、評判を傷つけることにもなります。さらに、激怒したこの顧客は間違いなく自分が受けた不快な体験を周囲に話すでしょう。
このような破壊的な結果を防ぐことはできるでしょうか。
商品体験になくてはならない4つの要素
商品体験(プロダクトエクスペリエンス)の分野で勝利を収めることは可能です。昨今のビジネス環境では、顧客体験に真剣に取り組んでいる企業は優れた商品体験を看過できない状況になっています。商品体験に失敗すれば、顧客ジャーニーが終了してしまう可能性があるためです。
では、優れた商品体験の実現に欠かせない要素について検討してみましょう。
- 正確性 – 不正確さによって顧客は関心を失い、ひいては販売が不成立に終わり多くの時間が無駄になるため、正しい商品情報の提供はデジタルリテールの基盤と言えます。不正確な商品情報による実際の損失額は不明ですが、2016年にアメリカ人がオンライン購入した商品の返品額は2,600億ドルに上ります。返品の理由はさまざまですが、商品情報の不正確さや欠如がその理由のひとつである可能性があります。
- 一貫性 – 認識を生み出し、信頼やロイヤルティを構築する上で基準は不可欠。メッセージングやイメージングなどに一貫性が必要とされるのはこのためで、eコマースでの商品体験の提供についても同じことが言えます。たとえば、ある企業が1つの商品に複数のサプライヤーを使っており、多種多様なフォーマットで情報や画像を提供されている場合は、顧客の混乱を招かないよう一貫した情報を提供するために、単一のフォーマットを設定し、全体で一貫して実装する必要があります。
- 完全性 – 現代の顧客が情報通であるということに疑いの余地はありません。彼らは製品・サービスの購入前に入念なリサーチを行ない、選択肢を比較検討します。賢明な企業は、顧客が必要とするすべての情報を矛盾なく提供し、製品・サービスの制限事項を躊躇せず伝えます。優れた顧客サービスの名のもとに、推奨する製品の紹介やトレーニングの提供さえ行う必要があります。
- 関連性 – ページを表示した直後に探している商品を見つけられなければ、顧客はあっという間に別のページに移ってしまいます。ここで言う関連性とは、時間を無駄にすることなく、核心を突くことを指します。関連性のもう1つの働きはアップセリングです。検索に関連した提案を行うことで、企業は当初予定していなかった製品・サービスへの認識を促し、より多く販売できる絶好のチャンスを得ることができます。